南校舎の最上階
北側廊下のつきあたり
扉を開けると
そこは・・・・・
「こ、工事中?」
・・・・でした。
はじめまして、泥棒です。
な、何で工事中なんだろう・・・。
いたる所に木材、ペンキが入っているであろう缶、
そして何やら怪しげな大道具?が無造作に置かれている。
ハルヒは持ち得る記憶を総動員して必死に思い出していた。
昨日は普通に部活あったし、それに誰も工事するなんて言ってなかったよね・・。
うーん、とうなった所で何も思い当たらない。
うん、やっぱり何も言われてない、絶対そうだ。
勝手に自己完結をしたハルヒは次の疑問に取り掛かる事にする。
いつもならとっくに部活が始まっている時間だった。
なのにここはこんな状態で、しかも誰の姿も見あたらない。
おかしい、そう思わずにはいられなかった。
ハルヒはぐるりと部屋を見回す。
やっぱり誰の姿も見えない。とそう理解しようとした瞬間、奥からガサっと音がした。
「・・・っ!?」
ハルヒは声にならない悲鳴をあげて後ろへ一歩下がった。
ど、泥棒?
ここはまがりなりにも超金持ち学校だ。
その影響は色んな所にある。
最近驚いたのは廊下に飾ってある絵が数百万するという事だ。
毎日何気に通り過ぎていた自分を少し恥じた。
それに、ハルヒがホスト部に入るきっかけとなった壺も800万はくだらないものだった。
普通そういうものは厳重に保管しておくものだが、
あろうことかこのホスト部の活動場所にポンと置いてあったのだ。
これなら泥棒も楽に仕事ができるだろう・・・って違う違う。
ハルヒはもう一度確かめるために音がした方を見つめる。
やっぱり何か動いてる。
一度深呼吸をしてから恐る恐る近づいてみる。
「だ、誰かいるんですか・・・?」
いつものハルヒからは想像できないほど弱々しい声で誰にでもなく尋ねる。
予想していた通り返事はない。
「あのー。」
それでも声をかけ続けたのは別に好奇心が抑え切れなかったというのではなく、
単純に独りという不安を紛らわさせるためだった。
目的の場所に近づいて来た時、またガサっと音がして、今度は何かが動いた気がする。
ハルヒは一瞬立ち止まってその場所をじーっと見つめた。
何かがせっせと動いているのがハッキリ分かった。
や、やっぱり泥棒?
忘れようとしていた不安が倍になって戻ってくる。
ど、どうしよう・・・誰か・・。
ハルヒらしからぬ考えがよぎる。
そんなこんなしているうちに、目の前の泥棒らしき人の動きがぴたっと止まり、すっと立ち上がった。
背中しか見えないが、泥棒らしき人は黄緑色のつなぎを着て、手には軍手をつけているようだ。
どこをどう見ても泥棒だ。そうハルヒは直感する。
逃げなきゃ・・。
そう思うのに足がすくんで動けなかった。
泥棒らしき人がこっちを振り向く。
ハルヒは無防備に突っ立ったままぎゅっと目を閉じた。
こっちに近づく足音が聞こえる。
もうだめだ・・・。
「ねぇ、君・・・。」
「ご、ごめんなさいっ!何も見てません。というより自分は特待生なのでお金は持ってませんっ!!」
あまりにも混乱していたせいか、ハルヒは自分でも良く分からない事を叫んでいた。
「・・・・・・・?」
相手の反応がないので、恐る恐る目を開けてみる。
そこには不思議そうに首を傾げて立っている泥棒らしき人がいた。
その人は栗色の髪に青い目をしていて、ハルヒが思わず見とれてしまうほど綺麗だった。
「うん、知ってるよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
見とれていたのと、返答の意外さでハルヒは間抜けな声を出してしまった。
「初めまして、藤岡ハルヒちゃん。」
泥棒らしき人はにかっと音のしそうな笑顔を浮かべた。
「ホント、タマが言ってた通り、可愛いね。しかも面白い。」
「・・・・はぁ・・。」
タマって誰だろう・・・。
ハルヒはぼけっと目の前の人を見つめていた。
すると泥棒らしき人は一瞬考え込んだ後、あ、と呟いた。
「って言うかさ。ハルヒちゃんが戻ってきたって事はもうミーティング終わったんじゃん?
やっべー、こっちがまだ終わってないし。他の奴らは?」
「え?ミーティング?」
「そう、ミーティング・・・・ってもしかして聞いてない?」
「はい。」
ハルヒの返事を聞いた泥棒らしき人は大きなため息をついた。
「あんのバカ双子。やっぱり忘れやてがったなぁ・・・。」
低い声でそう呟いた表情はさっきの笑顔とは180度違って、黒いオーラが漂っていた。
しかも双子と言った。
どう考えてもハルヒの思い当たる双子はあいつらしかいない。
「あの・・。」
「あぁ、うん、どこから話せばいいかなぁ。えっとね、実は今日ホスト部はミーティングの日で、
部活はそれが終わってから始まるんだよね。ここまで良い?」
さっきまであんなオーラを放っていたとは思えないぐらい、ハルヒに向ける表情はとても優しかった。
ハルヒはうなづく。
それを見て泥棒らしき人は少し笑った。
「それでね、今日の朝、タマがハルヒちゃんに直接伝えにいったんだけど、
あ、俺も一緒に行ったんだけどね。ハルヒちゃんいなかったでしょ?」
「朝、ですか。えっと・・。」
ハルヒは朝の事を一生懸命思い返す。
しばらくして一つ思い当たった。
「日直だったので、職員室にプリントを取りに行ってました。」
「そうそう、それでね、しょうがないから光と馨に伝言頼んでおいたんだけど。
忘れてたみたいだね。もう、本当にあいつら・・。」
「そうだったんですか・・。」
「そうなんですよ。」
「・・・あの、それで・・あなたは一体?」
ハルヒはずっと気になってた事を思い切って聞いてみた。
泥棒らしき人は驚いた顔をして一瞬止まった。
「あれ、俺自己紹介しなかったっけ?」
「はい。」
「うっわ、ゴメン、した気になってた。」
「いえ、別に謝る事では・・・。」
「俺はね・・・・・・ってそうじゃない!ハルヒちゃん行かなきゃ。俺の自己紹介なんて聞いてる場合じゃないよ、ミーティング!」
いきなり泥棒らしき人がハルヒの手を握ってドアの方まで引っ張っていく。
ハルヒはされるがままついていっていた。
「えっとね、第三資料室なんだけど、分かる?」
「だ、第三資料室?」
頭の中で学院内の地図を広げる。と言っても抜けている部分が大半なのだが。
そんなもの今まで聞いた事がない・・。
ハルヒは困った顔で泥棒らしき人(いや、もう違うとは思うけど)を見た。
「やっぱり分からないよねー。俺も未だに迷うもんここ。
よっし、んじゃあこのまま一緒に行っちゃおう。俺もちょっと休憩したい所だったし。ね。」
「良いんですか?」
ハルヒの問いに最初に見せたもの以上の笑顔が返ってくる。
「良いの良いの!ちょっと急ごうか。」
「はい。」
ハルヒも自然と笑顔で答えていた。
そのまま二人は廊下を走っていった。