月を見ると何だかドキドキする。
それがどうしてなのかは分からないけど、すごくすごく、胸騒ぎがする。
だけど、そのドキドキが俺は好きだ。
すごく、好きなんだ。
「・・・・・はぁ?」
後ろから思いっきりのため息。
この人に話したのが間違いだった。
と言うか、何でこんな話しちゃったんだっけ・・・。
「そういう時・・・ないっすか?」
ちらりと後ろを振り返ってみると、複雑な表情をしている。
そんなに特別なことなんだろうか。
「そりゃお前アレだろ。」
「アレ?」
返答が気になって立ち止まる。
「狼男の末裔なんじゃねーの?」
期待して損した。
そうだよ、この人にまともな意見を求める方が無理だったんだ。
俺が馬鹿だった。
「・・・・もういいっす。」
さっきよりも速度を速めて歩き出す。
すると慌てたような足音がついて来るのが分かった。
「んだってよ、月見て興奮するなんて、狼男ぐらいだろ。」
まだ言ってるよ・・。
次から次へと良くそんなことが出てくるな、ホントに。
「だから、もう良いですってば。」
「月のパワーに引き寄せられてんだろ、あいつらは。お前もそうなんじゃん?」
「だからぁっ!もうその話は・・・」
驚いて最後まで言えなかった。
さっきまで少し離れてる所に居た筈なのに。
怒鳴ろうと振り返ったすぐそこに、にやりと笑った顔があった。
息が触れるくらいの距離だった。
「ちなみに俺も一種の狼男かもしんねぇなぁ。」
動けない。
何だろう、これ。
引き寄せられるようなそんな感覚。
「月には興奮しねぇけど、な。」
「ど・・いうこと・・っすか。」
やっとの思いで発した声は震えて、掠れて、ひどい声だった。
「わっかんねぇかなぁ。俺、今も興奮してるぜ?やばいぐらいドキドキしてる。」
ふと、耳元に近づけられた唇から熱い息が感じられる。
「お前を見るたびに、すっげぇやばいよ、俺。」
囁かれた言葉に一瞬目眩を起こしそうな錯覚。
「ちょっ・・・と。」
ヤバイ。
このままじゃ、堕ちてしまう。
引き寄せられ過ぎて、近すぎて。
おかしくなりそうだ。
「なぁ。」
クスリとこっちの様子を楽しむように笑いながら、段々と距離を縮めてくる。
「オオカミになっても良い?」
抵抗する間もなく、乱暴に口付けられる。
けれど、怖くはなかった。
寧ろ、心地好いぐらいだ。
そう、あの月を見た時のような胸騒ぎを感じていたから。