「・・・ホントに、マジで、悩んでたんだからね。」
俺は座っていた床から立ち上がって、千石さんの隣へ座りなおした。
「悩むことなんて、あるの?」
「俺にとっては君の家に泊まるって事は・・・最期のラインだったんだよ。」
分かる?と視線を送ってくる。
それに俺は視線で頷いた。
「今までことごとくキミの誘いを断ってたのは・・・・まぁ、怖かったからなんだけど。」
「別に・・俺はいつもそんなつもりで誘ってたわけじゃ・・。」
知らなかった、そんな風に思ってたんだ。
「分かってるよ、分かってるんだけど。でも、そうならないとも限らないでしょ?」
「・・・まぁ・・・確かに。」
千石さんが俺の返答にクスリと笑う。
「でもね、別にそういう事になる事自体が怖かったわけじゃないんだよ?
だって、俺、切原くんのこと好きだから。何されても良いんだけど・・・さ。」
「だったら、何でそんなに悩んでんのさ。」
ふっと顔を上げて、千石さんが不安げな瞳で俺を見た。
「俺・・・永遠にキミのことが好きだって保証できないから。」
「・・・どういうこと。」
この人はたまに俺の分からないことを言う。
どこか、この人なりの考えがあるんだろうってことはいつも分かるんだけど。
上手く理解できない。
でも、分かりたいから。
全て、受けとめたいから。
「最期のラインを超えちゃったら、きっと後悔する。」
千石さんも俺が分かるようにと、一言一言ゆっくり話してくれる。
前に尋ねたら『俺も分かち合いたいから』って言われた。
「うん。」
だから、俺も一つ一つに頷く。
分かったよって、知ってもらう。
「将来、いや、もしかしたらすぐ未来かもしれない・・・。
もし俺たちの関係が今と変わってしまったら。
こうやって一緒に居ることが出来なくなってしまったら。
きっと、ラインを超えたことを後悔するよ。」
「そうかもな。」
「俺は・・・良いんだ。けど、キミにそんな思いさせたくない。」
だんだん、はっきり見えてくる。
この人を・・千石さんを悩ませているものが。
「だから、怖かった。」
そこまで言うと、千石さんは俯いたまま黙り込んでしまった。