部活が終わった部室。

着替えていると、ふと隣の仁王先輩が思い出したように喋りだした。


「そうそう、昨日たまたまお前ら見掛けたんやけど。」

「え?」

「千石と付き合ってるってのは本当やったんやのぉ。」

「もしかして・・・。」

「仲良さそうに並んであるいちゃって、まぁ。」

「そんなことないっすよ・・・」

「まぁ、それは良いとして、ちょっとばかし思ったんやけど・・。」

「・・なんすか?」

「赤也って千石より背低いんやのぉ。」

「・・・それがどうかしたんすか。」

「不便やないんかなぁって思っただけ。」

「どういう事っすか。」

「キスする時とかどうしてんの?やっぱ、千石が屈んでくれるん?」

「・・・仁王先輩。」

「まぁまぁ、そう怒りなさんな。背ぐらいすぐ伸びるから、精々頑張りんしゃい。」

仁王先輩は何事もなかったように部室を出ていった。














「って事があったんですよ。」

公園のベンチで今日の出来事を全て報告した。

あぁもう、思い出しただけでムカツク!!

「ふーん。」

一方千石さんは全く興味無しの反応。

「ふーんってアンタね!言われた俺の気持ちにもなってみろよ。」

「だって、たったの2センチでしょ?そんなに気になるかなぁ。」

この人に話したのが馬鹿だった。

おきらくに過ごしてるこの人に俺の虚しさは分からないんだ・・・。

「実際キスする時、アンタ屈んでくれてるでしょ。あれ俺的にかなり情けない。」

「ほんのほんのちょっとじやない。」

それフォローになってねぇよ。

畜生。

「ほんのほんのちょっとでも気にするんだよ!
アンタと違って俺は繊細だからなっ!。」

マジムカツク!!

「・・・君の場合神経質って言うんじゃない?」

「ケンカ売ってんの?」

「いや、本音を言ったまでだよ。」

「だからケンカ売ってんの!?」

千石さんはやれやれと言った風に溜め息をついた。

「あのねぇ、切原くん・・・ってケンカしてても仕方がないか。」

千石さんはおもむろに立ち上がった。

「何やってんですか。」

「何って、見ての通り。」

そして何を思ったのかスニーカーを脱いだ。

「一応靴下も脱ぐかなぁ。」

「アンタ何考えてんの。」

千石さんは結局裸足になってしまった。

「さぁ切原くん立って。」

グイと腕を引っ張られて立ち上がる。

・・・あれ。

「さあ、どうだ。」

「何か・・変。」

向かい合う千石さんの目線が・・。

「同じだ。」

いつものほんのほんのちょっとのズレがない。

「言ったでしょ?たったの2センチだって。」

「でも何で・・・あ。」

俺は千石さんの足元に目をやった。

「今切原くんは靴をはいててちょい背が高くなってるでしょ?んで俺は・・」

「靴を脱いだ分ちょい低くなって俺と同じになった。」

「ご名答。ね、簡単なことでしょ。」

にっこりと笑った千石さんを見て、一瞬泣きそうになる。

「アンタ馬鹿じゃないの。」

顏を見られないように、抱きしめた。

「言ってる事とやってる事がチグハグだよ?」

「いいから黙ってろよ!・・・足どうすんだよ、汚しちゃって。」

こんな事の為に。

「洗えば良いよ。」

「・・何か、ゴメン。」

俺、マジで情けねぇ。

「謝らなくて良いのに。寧ろ本音が聞けてよかったぐらい。」

「背、絶対伸ばすから。」

「ま、そう焦らなくてもすぐ伸びるよ・・俺もだけど。」

「一言余計だっての。」

千石さんが小さく笑いながらゴメン、って呟いた。

「・・・ねぇ、せっかく目線が同じになったんだから、試してみない?」

「なにを?」

俺の返答に千石さんが不審顔をこちらへ向けてくる。

「君、分かってて言わせようとしてないかい?」

「いやまさか。何のことだったっけ。」

「・・・帰る。」

「うわ、ゴメン、待てって!」

パッと俺から離れて行こうとする腕をつかんでもう一度引き寄せる。

そして軽く触れるだけのキスをかわす。


「あー、何かちょっと新鮮かも。」

「だろ?2センチも結構馬鹿にならないって。」

「んーじゃあ早く大きくなって、俺を追い越してね。」

「なんだよそれ。」

千石さんがにっこりと笑う。

「そしたら、もう一度新鮮さが味わえるじゃん?」

・・・なんじゃそりゃ。

よし、こうなったら意地でも追い越してやるぜ!!

そうと決まれば・・・

「牛乳買って帰るぜ!」



「・・・お、お腹壊さないようにねぇ。」


★end★