届いたメールをみて、ちょっと安堵した自分がいた。
嫌いだ、こんな俺は。
最低だ。
だって、また俺は彼を傷つけようとしてる。
いつも、いつも、こんな事しちゃいけないって分かってるのに・・・・なのに。
どうして 俺は。
やめたい、やめよう、やめさせて
彼、切原君の気持ちに俺が気付くのに、そう長い時間はかからなかった。
とっても素直な子だから、嘘を吐いててもバレバレ。
もし、もし俺があの人と出逢う前だったら。
なんのためらいも無く、切原君の想いに応えられたと思う。
だけど、もう、出逢っちゃったから。
一生を、この命を、捧げても良いと、惜しくないと思える人に・・・。
いくら酷い事言われたって、何されたって、かまいやしない。
好きって、愛してる、って言ってくれなくったって、良いんだ。
ただ一言、俺の名前を呼んでくれたら、それだけで、俺は生かされるんだ。
くだらなくって、退屈で、何ひとつ未練が無いと思ってたこの世界に、あの人が色を与えてくれた。
だから、今俺は生きてる。
これからも、生きていける。
いつだったか、俺がそんな事を言ったら、切原君が、ホントに本当に小さな声で言った。
『いいなぁ、羨ましい。』って。
あの時は、聞き取れなかった振りをした。
じゃないと、俺は自分の気持ちを押さえきれなかったから。
あの瞬間、切原君のことがとても愛しくて、愛しくて。
抱きしめたくて仕方が無かった。
こんなにも純粋に想ってくれてる。
その気持ちがとても、悲しかった。
もう、俺なんかのこと忘れて、幸せになるべきなんだ。
彼は、そうならなくちゃいけない人なんだ。
そう、思うのに・・・・こうやってまた彼の事を巻き込んでる俺がいる。
でも、今日は、言おうと決めてきた事があるんだ。
もう、彼を解放してあげなきゃいけないから。
やっと、ここまできた。
「千石さん。」
メールを送ってから、ここまで走ってきてくれたんだろう。
息を切らしながら切原君がやってきた。
俺を見つけるとにかっと笑って手を振り、名前を呼ぶ。
そして、俺の前の席に座った。
「また、何かされたんすか?」
心配そうな、そんな瞳で見つめないで欲しい。
いつもそのたびに、俺は胸が苦しくなるんだ。
「千石さん・・・・?」
「あ、あのね。」
早く、早く言わなくちゃ。
「何すか?」
「あ・・。」
何で、声でないんだろう。
一言、たった一言でいいのに。
ゴメンね、って。
もうやめよう、って。
それだけ言えばいいのに。
何で、涙が出るの?
「千石さん、さ。」
俺が黙って俯いていると、切原君がゆっくり話し始める。
「あいつの前じゃ泣かないんでしょ。」
とてもとても優しい声。
俺は顔を上げて、前を向く。
そこには、何もかも分かってる、という風な大人びた表情を浮かべた切原君がいた。
「俺の前でだけ、泣くんでしょ。」
俺は、反射的に頷いた。
深く考えた事は無かったけど、事実だった。
切原君が、少しだけ笑った。
「だったら良いよ、それで。俺は良い。」
涙が溢れた。
彼の優しさが、苦しくて、悲しくて、つらくて・・・・・・・嬉しくて。
「良いんだ・・・・。」
切原君がもう一度、小さく呟いた。
結局、俺は何も言えなかった。
あぁ、神様。
どうか、どうか。
この、優しすぎる彼を、愛しい彼を。
幸せにしてあげて下さい。
どうか、どうか。
この矛盾した願いを、叶えて下さい。