千石清純って人は本当に良く分からない。
楽しそうに笑ってたと思えば、
急に俯いてしまう。
オレの事が好きだって言ってたと思えば、
大嫌いだと喚き散らす。
じゃあ、オレも嫌いだ。と言ってみれば、
行かないでって涙を流す。
分からない。
どれがこの人のホントなのか。
はたまた、全部計算し尽くされたウソなのか。
経験希少なオレは、経験豊富なあの人のことをまだ、
掴みきれないでいるんだ。
スマイルゼロエン
「切原君は本当に可愛いね。」
思わずオレは口まで持っていきかけたポテトをトレーに落とした。
「・・・・・・・・・・は?」
「可愛いね。」
ホラまたワケの分からない事言ってるよこの人は。
「どう考えても可愛いのはオレじゃなくてアンタでしょ。」って言いかけてやめた。
そんなこと口が裂けても言えるはずがない。
気を取り直してポテトを手に取って、ちらりと正面に座っている千石さんを見た。
あいも変わらずの営業スマイル大安売り。
スマイルゼロ円ってか・・・・うわ、オレ古っ・・・。
ってかあれって本当にメニューに書いてたんだっけ・・・・覚えてねぇ。
「今何考えてるか当ててあげよっか。」
「は?」
「うーんとねぇ・・・・。」
オレの返事も聞かずに千石さんは目を閉じて何か呟き始めた。
ホント、アホだろこの人。
そう思いつつも一応期待しているような素振りを見せるために、ポテトを食べる手を止める。
こうやってこの人のアホに付き合うのは別に苦じゃない。
どちらかと言うと・・・・うん、まぁ、退屈しないし、良いと思う。
こういう時間、嫌いじゃないし。
もちろん、この人のことも・・。
しばらくして千石さんが目を開いた。
そしてオレに向けてピシッと音がしそうなほど勢いよく指をさす。
そこで一言。
「・・・・ズバリ言うわよ!」
呆れてものも言えないってこういう事だと実感した。
まぁ、別に期待はしてなかったし嫌な予感はしてたんだけどね。
それにしても、この人は・・・・。
「・・・・・・・おもいっきしパクリじゃん・・・何、それが言いたかっただけなワケ?」
どうせ、そんなことだろう。
すると千石さんはもう一度。
「ズバリ言うわよ!」
この人オレの話全く聞いてなかったな。
「だから・・・・」
突然、千石さんが指をオレの口に当てて左から右へと動かした。
いわゆるお口にチャック、と言うヤツがしたいらしい。
オレは幼稚園児かよ・・・全く。
「ハイハイ、もう何も言わねーよ。ご勝手にどうぞ。オレはポテトでも食べてりゃいいんだろ。」
半ば自棄になってオレは残ってるポテトをすごいスピードで食べ始めた。
千石さんはそれでも構わないのかニコニコしたままシェイクをひと口飲んだ。
飲んだ、とこまでは良かったんだけど。
それっきりオレを見つめたまんま何も喋らない。
あぁもう、イライラする。
ポテトを全て食べ終えた後もそのままなので、オレはたまらなくなって口を開いた。
「・・・・・んで、結局なんなんだよ。」
「んー?あぁ、そっか忘れてた。」
「・・・・おい。」
やっぱり決め台詞が言いたかっただけじゃねーのか。
千石さんは『じゃあズバリ言うけど』 と前置きをして話しはじめた。
「切原君は今、幸せだなーと感じているでしょ。俺といられて。うん、絶対そうだ。」
千石さんはさも当然のように言い放った。
そのあと、ヘらっと笑って、いつも通り誤魔化しモード。
そうはさせるか。
「・・・なぁーん・・・・・」
「そうだけど、それが何?」
「てね・・・・・・・ヘ?」
何を今更、って顔をしてやった。
千石さんは間抜けな声を出した格好のまま固まっている。
ざまあみろ。
「・・・・・・・・・・・・・・・えと、き、切原君?キミ一体何を。」
「だから言ったまんまだよ。アンタがズバリ言うっていったんだろ。」
もう一息。
もう一息で掴めそうだ。
「はぁ・・・・そうですか・・・・・・・・・・・・・。」
千石さんはしばらくブツブツと呟いた後、急に顔を真っ赤にしてあたふたしだした。
いつになく慌ててる。
ホント、可愛いのはあんただよ。
オレはその様子に自然と笑みがこぼれていた。
「き、切原君っ!!キミねぇ、年上をからかうのはやめようよ!!もうっ。」
千石さんはひと通りオレに向かって何かしら言った後、シェイクを手にとり一気に飲み干した。
そして息が落ち着いたのかちらっと上目遣いでこっちを見る。
「・・・・・・ホントにもう、この子は。いつの間にこんなワルに育っちゃったんでしょうね。」
お父さん悲しいわ。と拗ねた表情で千石さんが言った。
おいおい、こういうとき普通はお母さんだろ。
じゃなくて、いつアンタがオレの父親になったんだ。
・・・・って言うかやられた。
また、もとのワケ分かんない千石さんに戻ってしまった。
あともうちょっとで掴めそうだったのに。
いつもそこではぐらかされる。
・・・・・・もう、いいや。
オレは諦めのため息を一つついて、千石さんを見た。
こうなるともう笑うしかない。
「アンタにだけだよ、こんなこと言うの。」
千石さんはまたちょっと顔を赤くして、そして今度は真っ直ぐオレを見た。
「・・・・分かってるよ。だからこそ憎めないんだよ。もう、ホントに。可愛いんだから。」
「いや、だからどこを見たらオレが可愛く見えるんだよ。」
つい心のつっこみが声に出てしまう。
千石さんはそれでも変わらずスマイルゼロ円。
いや、だからオレ古いって。
「ふふふ、好きだよ、切原君。」
いや、アンタもそれ返事になってないから。
アンタっていっつもそうだよね、オレの話まるで聞いてないんだ。
ま、でもいっか。
何度、誤魔化されようと、俺は諦めないし。
絶対アンタのその厚い面の皮の下を見てやる。
まずはとりあえず言ってやろうか。
『オレも』って。