なぁ、憶えてる?


うちの近くの桜並木。


あの道を通るたび、あんたのことを思い出すよ。


今でも。


多分、いつまでも。



















「ねぇ。手、繋ごうか。」


「絶対嫌。」


言うのと同時に、両掌を力一杯握った。

手を繋ぐなんて冗談じゃない。


「もー、そんなに照れなくたって良いのにー。」


「照れてないっ!!」


俺の叫びにあわせるかのように、不意に風が吹いた。
ヒラヒラと舞った桜に、一瞬視界を遮られる。


「ハイハイ。あ、みてみて、花びら。」


千石さんが掌をこちらに突き出した。

その凄く自然な動作につられて、
何となくその上にあったピンクの花びらに手を伸ばす。


瞬間、がばっとその手を捕まれた。


「うわっ・・ちょっと何するんすか!!」


ブンブンと手を振って抵抗するが、全く意味をなさなかった。

千石さんはちらりとこっちに笑みを向けるだけで、何考えてんだか分からない。

あーもー、分かった分かりました。


「俺の負けっすよ、もう・・。」


諦めの溜め息を一つついて、千石さんの手を握り返す。


「分かればよろしい。」


また、桜が舞う。

泣きたい程綺麗だった。














なぁ、知ってた?


あの時俺は、舞い散る桜なんかより、目の前で笑うアンタにみとれてたんだ。


悔しいから言ってやらなかったけど。



言ってやれば良かったって、今は凄く後悔してる。


だって、今はもう、こうやって思い出すことしか出来ない。


あの日、あの瞬間の俺にしか言えなかった。












春が来るたび、そう思う。