大好きだった。
アンタのためなら何だって出来ると思ってしまうぐらい。
何度アンタを泣かせたんだろう。
何度俺は泣いたんだろう。
大切にしようとすればするほど、うまくいかなくて。
けどさ。
それでもこうしてずっと一緒に居たのは・・多分。
アンタが好きだったから。
たったそれだけだった。
いまでもきっと、それしかないけど。
だからこそ、こうなってしまったんだって。
そう思うよ。
「もうすっかり冬っすね。」
吐き出した息が白い。
「そうだねぇ。今日辺り雪でも降るかもね、ってお天気お姉さんが言ってたよ。」
千石さんがフッと空を見上げる。
俺はその横顔を一瞬だけ見て、また正面を向いた。
今日はまだ一度もこの人の瞳を見てない。
見てしまったらもう、終わってしまう気がしてたから。
まだもう少し、この人の隣に居させて欲しかった。
訪れた沈黙が怖くて、話題を探していると、眩い光が視界に入ってきた。
「イルミネーション・・キレイっすね。」
光で飾られた大通りはすごくキレイで、何だか少し泣きたくなった。
千石さんの視線が俺に向いていることに、さっきから気付いてた。
多分もう、俺の悪あがきに気付いてしまってるんだろうことも。
「・・・千石さん。」
足を停めて、千石さんを見た。
千石さんはいつも通りの、優しい眼差しを向けていてくれて、俺はずっと目を逸らしてたことを後悔した。
何でもっと早く、こうして向き合わなかったんだろう。
この人はいつだって待っててくれてたのに。
考えれば考えるほど、想いが募ってきて、キリがなかった。
もう、終らせないと。
「キスしても、良い?」
最後だから、とは言えなかった。
言うべきだったのに。
言えなかった。
「・・・いいよ。最後だから、ね。」
千石さんは何もかも分かったみたいに少し微笑んで、ゆっくり目を閉じた。
それがすごくキレイな表情だったから。
いや、それだけのせいじゃないけど。
涙が流れた。
最後くらい、格好良くしてたかったのにさ。
千石さんに見られてなきゃ良いけど。
俺は袖で顏を拭って、出来る限りの笑顔を作った。
「千石さん・・大好きでした。」
幸せに、なってください。
そしてまた・・・・いつか。
いっぱいいっぱい想いを込めて、俺は千石さんにキスをした。
俺は走った。
なるべく早く、なるべく遠く。
あの人から離れられるように。
ハラハラと舞い降りてきたものに気付いて、足を停める。
空を見上げると、静かに降り出した雪が俺の頬に落ちた。
そしてそれは、ゆっくりと涙みたいに流れていった。
ねぇ、千石さん?
俺はあんたに出逢えて良かったと思ってるよ。
後悔なんて一つもない。
きっと、あんたと一緒にいた時間は、いつまでも俺を支えてくれる。
だから、悲しくなんてない。
大丈夫。
またいつか、笑い合える日が来るよ。
そう、思わない?