探していた背中を見つけ、オレは咄嗟に駆け寄ろうとした。


けど、あと数メートル、という所で彼の表情を見た途端、動けなくなってしまった。


「銀時。」


行き交う人波をどこか悲しげに遠い目をして見つめていた銀時は、
オレの声で我にかえったようにその表情をいつもの銀時に戻した。


「あー、何だお前か。何、俺に用?あ、ツケなら払えねーぞ。」


そう言って笑った本人は完璧に普段通りを演じたつもりなのだろう。


けど、オレは気付いてしまったのだ。


「そんなコト、期待してないよ、ハジメっから。」


・・・瞳が。


いつも死んだ魚のような彼の瞳が。


「そーなの。んじゃあ、何?他に俺何かしたっけ・・・まさか、アレがバレたんじゃ・・。」


・・・声が。


退屈そうに発せられた彼の声が。


「ねぇ、銀時。」


・・・すべてが。


彼の身体もココロも何もかもすべてが。


「・・・・なに。」


叫んでる。


「アンタ、さ。」


泣いてる。


「だぁかぁらぁ・・・どしたの。そんな深刻そうなカオしちゃって。」


どうすればいいの、って・・・。


痛いくらい、泣き叫んでる。


「どうしたいの。」


「・・・・・はぁ?。」


「銀時は何で今ここに居るの。これからどうするつもりなの。過去は・・・どうするの。」


抑えきれない感情が溢れだした。・・ついでに涙も出た。


正直、自分でも驚くぐらいだった、けど、今までのコトを思えば当然だった。












銀時はたまにふと、どこか遠くを見ていた。


今にも居なくなっちゃうんじゃないかって思う時もあった・・・恐かった。


全部、諦めてしまったの?全部、捨ててしまったの?


じゃなきゃ、あんな悲しい笑顔は・・・しないよ、銀時。














「何か・・色々、驚いた。」


ホントに驚いた顔をして、銀時が呟いた。


「お前って・・・もっとクールな奴なのかと・・・いや、今はそんなこと問題じゃねーか。


・・あーうん・・・まぁ、ね。どーするって言われると困るんだけど、も。」


銀時が少しこっちに近づいてきた。


表情は、あの・・悲しげな笑顔だった。


「・・・とりあえず、さ。なき止め。何か、落ち着かないから。」


止められるなら、止めたい。


けど、気持ちは溢れる一方で、もうオレにもコントロール出来なかった。


すると、銀時がまた少し、こっちに近づいてきて、ちょっと躊躇いがちに指で涙を拭ってくれた。


とても、優しい動作だった。


「俺のせい・・だよな。・・・ごめん。ホント、ごめん。」


謝らせたい訳じゃない。


そう言いたかったけど、口に出したらまた、涙が出そうだったから、首を横に振るしか出来なかった。


銀時がオレの頭をポンポンと軽く撫でた。


そしてまた、流れる人波に目を向けた。


「分からない・・・今まで・・何も考えずに居たから。」


静かに告げられた言葉から、銀時のココロが伝わってくる。


「あの頃は・・・ただ、向かってくるものを排除して。
仲間はだんだん居なくなって・・・俺は生きてて。
何のために、なんて考えられなくなってた。」


次々と告げられるココロにまた涙が流れそうになる。


オレは下を向いて、何とかそれを抑え込んだ。


だって、今一番泣きたいのは・・・・。


「だけど・・急に日常に放り出されて。それで、何となくフラフラ生きてきて、さ。
お前とか・・・新八とか、神楽とか。
色んな奴に出会って、俺、少しは変われてきてると思うんだよ。」


銀時がこっちを見てる気がして、俺は顔を上げた。


その拍子に一粒涙が流れた。


それを銀時がまた、優しく拭ってくれた。


「今のところの願いは、さ。お前らが幸せに、楽しく生きて。
そんで、楽に死ねたら良いなぁってことだな・・・・俺より後に。」


「銀時は?」


オレの問いに、銀時は一瞬戸惑い、表情を曇らせた。


けど、すぐにまた普段の彼に戻り、笑った。


「俺は・・・ホラ、アレだ。お前らが居ればそれで十分なんだよ。・・・・なーんて。」


銀時が楽しそうに笑ったから、つられてオレも笑みを返した。


すると照れ隠しか、銀時がこっちに背を向け、人波の方を向く。


そして、そのまま黙ってしまった。


「銀と・・」


不安になって声を掛けようとした時、銀時の小さな小さな呟きが聞こえてきた。













涙がまた、流れた。

















“ハッピーエンドなんて柄じゃねーよ・・・・俺は。”


















彼は・・確かにそう、呟いたのだ。