俺は手の平に舞落ちた雪の粒を強く握り締めた。
当然、雪は一瞬にして溶ける。
それでも尚、俺は手の平を握り続けていた。
すると、ぽつ、と一滴の赤い液体が地面の白に染みをつくった。
手の平が、流れだした血液で真っ赤になっている。
それから、だんだん地面の染みが大きくなっていくのを、俺はボーっと眺めていた。
「山崎さん、冷えてきたから急ご・・・・っ!?アンタ何やってんの!」
駈け寄ってきたくんがマフラーを外して、俺の手の平に巻き付けた。
くんに似合ってた白いマフラーが、みるみるうちに赤く染まっていく。
「ホントにっ・・・どうしたんだよ・・。こんな・・」
くんの表情が泣きそうに歪む。
「くん、知ってる?雪に一番似合うのは、血の色なんだってこと。」
「狂ってる・・。」
くんはそう、呟いて下を向いてしまった。
そう、俺は狂ってる。
こんな俺がくんみたいな人の傍に居ちゃいけない。
俺は彼から離れようと、掴まれている手を振り払おうとした。
けれど、それは叶わなかった。
くんがさっきよりも強く俺の手を掴んだから。
「く・・。」
くんが顔を上げる。
その目には涙が溜められていた。
「早く、手当てしないと。急ごう。」
そう言うと、くんは俺の手を引いて歩きだした。
「くんっ、もう良いよ!」
「オレは!・・オレは違うと思う。」
俺の言葉を遮るように、くんが振り返って言った。
俺はその言葉の意味を図り損ねて、何も言えなかった。
「オレ、血の色は嫌い・・・・アンタが流す血の色はもっと嫌い。」
くんが俺を真っすぐに見つめた。
「だから、雪に一番似合うのは、血の色なんかじゃない。
もし、世界中の人がそうだって言っても、オレは認めない。」
くんが俺の手を優しく、強く握った。
そして、優しく微笑んだ。
「もっとずっと、素敵な景色が在るんじゃないかな、嫌な事全部忘れられるぐらいの。
オレ、一緒に探すから。こんな事しか出来ないけど、
山崎さんが笑えるまで、ずっと探すから。」
俺はその場に崩れさり、そのまま声を上げて泣いた。。
今まで俺を満たしていた、暗い何かが全て身体から抜け出ていくのが分かった。
泣いている間、くんは何も言わず、ただ俺の手を握ってくれていた。
すごく暖かく感じた。