「ねぇ、ティエリア。僕って人間として不完全なのかな。」
「どういうことだ。」
出動待機中の静かな部屋でふと呟かれた言葉。
一瞬だけ躊躇して、応えた。
「僕、ここに来るまで独りだったから、
自分以外の人間と関わる事なんて無かった。
だから、自分が普通なのか異常なのかなんて考えたことも無かったんだ。」
一つ一つ思い出すようにゆっくりと言葉が紡がれる。
だけど本心はまだ伝わってこない。
言いたいことは、まだ言葉にされてない。
「つまり、」
促すように視線を送る。
すると、一つ息を吸ってこちらを真っ直ぐ見つめ返された。
「皆生きたいって言う。できれば長く誰よりも。
けど、僕は別に今死んだって良い気がする。生に執着なんて、ないよ。」
「だから、不完全である、と言うのか。」
問えば、こくりと頷いて、そのまま俯いてしまう。
正直応える義務なんてないように思う。
けれど、そう思うよりも先に言葉を発していた。
「・・・・人間は、皆不完全だ。それに・・いつか生は途切れる。
それを早く願うも、遅く願うも、構わないだろう。」
別段気にすることじゃない、と言うとゆっくりと顔を上げ、少し表情を緩ませた。
「ティエリアにそう言われると、何だか凄く心強い。ありがとう。」
ホッとしたように息を吐く。
そう、生も死も訪れるままに受け止めればいい。
自分のすべきことさえ終わらせるためなら、死など恐れない。
「けれど、キミには、」
・・・・生きたいと、願って欲しい。
「え?」
死に抗って欲しい。
「いや・・そろそろ時間だ。」
何故かそう、願わずにはいられなくなってしまう自分がいる。
こんな感情は知らない。
知らなくて、良い。
「ティエリア、本当にありがとう。」
そう言って部屋を出て行く彼の背に、伸ばしかけたこの右手を。
俺は知らない。
知りたく、ない。