どんどん、俺の何かが壊れていってる
何でかな
彼の側に居られたら良いんだって、それだけだったのに
今は何だかその事が俺を蝕んでいっているみたい
もう どうしたら良いのか分からなくなってきてるんだよ
知らない事ばかりなんだ
でも それでも俺は彼が好きだったから
頑張るしかなかったんだ
「また、明日来るね。」
俺はそっと声をかけた。
泣き疲れたのか、はさっき眠った。
その寝顔が少し、綺麗過ぎて。
なんだかちょっと不安になる。
まるで息をしていないかのように、白く整った顔。
たまらなくなって、俺はそっとの頬に手を当てた。
温かい。
「大丈夫。生きてる。大丈夫。」
自分に言い聞かせるように呟いて、俺はの側を離れる。
そして、ドアの前でもう一度振り返った。
大丈夫。
心の中でもう一度呟いて、病室を出た。
病室を出た所で俺は一度立ち止まった。
立ち止まった、というより、歩けなくなったってのが正しいけど。
バカみたいに足が震えてた。
気付けば足だけじゃなく、体全体が震えてた。
こんなんじゃダメだ。
俺が今、こんな風になってちゃダメなのに。
たまらなくなってその場にしゃがみ込んだ。
大丈夫。
もう一度自分に言い聞かせる。
もう逃げないって決めたじゃないか。
だから。
大丈夫、じゃないとダメなんだ。
とまれ、とまれ。
何度も何度も言い聞かせて、やっと震えが治まってきた。
「・・・・大丈夫かよ、おい。」
突然上から降ってきた声に俺は顔を上げた。
「あ、亜久津。」
片手に小さなボストンバックを持った亜久津が立っていた。
俺は一つ深呼吸をして、笑顔を作った。
「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ。あ、手貸してくれる?」
しぶしぶ亜久津は手を差し出してくれた。
俺が掴むと、勢いよく引き上げられる。
「サーンキュ。あ、、今眠った所。優紀ちゃんは多分、先生の所だと思う。」
「あぁ、今そこで会った。今日はここに泊まってくらしい・・・・、帰りタクシーでも良いか?」
俺の顔を心配そうに見つめてくる亜久津が何だか可笑しかった。
「うん、良いよ。もう、帰る?」
「あぁ、これ置いてきたら用事は終わりだ。少し待ってろ。」
そう言うと亜久津はの病室へ入っていった。
俺は壁にもたれかかって目を閉じた。
今日一日で何だか、一生分のエネルギーを使ってしまった感じだ。
疲れた。
本当に疲れた。
でも、そんな事言ってられない。
明日からが大変なんだから。
・・・・・何が大変なんだろう。
一体俺は何に対して“大変”って思ってるんだろう。
あれ?そもそも何で俺はこんなに疲れてるんだろう。
知らない。
分からない。
いいや、何だか考えるのもしんどいや。
俺はとにかくこれからと一緒に居るんだ。
彼を泣かせないように。
だから、頑張らないと。
頑張らないと・・・・。
「千石?大丈夫か。」
目を開けると亜久津がさっきに増して、心配した顔で俺を見ていた。
「ん、大丈夫。あ、帰る?」
「あぁ、行くか。」
出口に向かって長い廊下を歩き出した。
亜久津も、俺も何だか場に合いそうな話題が見つからなくて。
それだけじゃないのかもしれなかったけど。
何となく話す雰囲気じゃなかったから。
病院の外に出て、タクシーを拾うまで、黙ったままだった。
「千石、お前、これからどうする気なんだ?」
タクシーに乗り込んですぐ、亜久津が目線だけ俺のほうへ向けて言った。
あぁ、亜久津はこれを言うタイミングを見計らってたから話し出さなかったのか、って
他人事のように思った。
何か答えないといけないんだ、としばらくしてから気付いて、
俺は質問をもう一度頭の中で繰り返した。
“これからどうするのか”
これから、ってなんだろう。
いつも通りじゃいけないのかな。
・・・・・・あぁ、そっか。
が病気だって、俺は知ってしまったから、いつも通りじゃいけなくなったんだっけ。
「千石?」
黙ったっきり答えない俺を変に思ったのか、亜久津が顔ごとこっちへ向けた。
何か答えないと。
俺は、大丈夫なんだから。
亜久津を心配させちゃいけない。
「どうするって、そんなの決まってるでしょ?俺の愛をに注ぐだけだよ。
亜久津ってば分かってるくせに聞かないでよね。意外と恥ずかしいんだ、言葉にするのって。」
俺は反射的に笑顔を作っていた。
多分、上手く笑えてたと思う。
亜久津は一瞬変な顔をしたけど、アホが。と小さく呟いてまた前を向いてしまった。
「それじゃ、また明日ね、亜久津。」
俺がタクシーを降りると、亜久津も出て来た。
「・・・亜久津?どうかした?」
「いや・・。」
何か言いたげな表情を浮かべている。
俺は亜久津の言葉を待った。
「千石、大丈夫か?」
亜久津からこの言葉を聞くのは本日3回目だった。
「何いってんの?大丈夫だよ。ってかに受け入れられてラッキーなぐらい。」
俺もまた1、2回目と同じ様な返事。
「なら、いい。じゃあな。」
「うん、バイバイ。」
亜久津がタクシーに乗り込みドアが閉められた。
俺はそれだけ確認するとその場を立ち去った。
ホントなら最後まで見送るべきだったんだろうけど、もうなんか限界だった。
どーでも良いから、早く眠ってしまいたい。
そして、朝起きて学校へ行ったら。
がいつものように『おはよう』って言ってくれて。
何事もない日常を送るんだ。
ありえない。
分かってる。
でも、少しぐらい願ったって良いじゃないか。
叶わないって分かってるんだから。
言いようのない不安が 俺を脅かしていた
臆病で仕方のない俺は
彼を守る事なんてできるはずがなかった
なのに彼は変わらずに俺を愛してくれていた
それに気がついていれば もっと もっと
強くなれたんじゃないかって
今更だけど
思ったんだ