いつも彼が側に居てくれるんだと
何となくそう思い込んでいたから
離れている時間がこんなにもつらいだなんて
知らなかった
ただ彼に会いたいと
それだけしか考えてなかった
俺は身勝手な人間でした
ただあなたに会いたいと、
「え、今日も休みなの?」
放課後の屋上で俺は亜久津に尋ねた。
「あぁ。」
亜久津がタバコの煙を吐き出しながら言う。
「何で?こないだからずっとじゃん。」
「あぁ。」
「あぁ、って亜久津!答えになってないよっ!」
俺が叫ぶ。
亜久津はギロッと音がしそうなくらいこっちをにらんできた。
いつになく迫力があるなぁ・・。
「ねぇ亜久津、俺あの日からに会ってないんだよ。」
「だからなんだよ。」
もう、分かってないなぁ。
「会いたいんだよ。分かる?俺はに会いたいの!」
亜久津がハァ―ッとため息をつく。
さっきまでの迫力はいずこ、今は完全な呆れ顔だ。
「ねぇ亜久津。」
「うるせーなぁ。黙れボケ。」
「酷いなぁ。」
が亜久津のお母さんもとい優紀ちゃんとデートに行くといって別れてから。
俺は一度もと会っていない。
大体いつも昼休みとかに屋上に来てくれる筈だったのに。
一度も来ないから、初めは忙しいんだろうなと思ってた。
けどある日亜久津が言った。
『はこの間からずっと休みだ。』
思えば俺ってのクラスとか知らなかった。
だから休んでることなんて分かる筈がなかったんだ。
ちょっとショックだった。
もうかれこれ一週間になる。
・・・会いたい。
すっごく会いたい。
なのに亜久津は理由の一つも教えてくれないんだ。
今何してんだろう。
携帯の番号ぐらい聞いておけばよかった。
「テメェ、部活行かなくて良いのかよ。」
亜久津がぼそりと呟いた言葉に俺は驚いた。
「・・・亜久津がそんなこと心配するなんて、信じらんない。」
「チッ。」
亜久津がそっぽを向いた。
「ふふ、何か今日は部活前に伴じいに呼ばれてるから、それまでは大丈夫なんだよ。」
亜久津は何も言わずにたばこを吸っている。
俺は空を見た。
雨、降りそうだなぁ・・・。
嫌な感じ。
「でもまぁ、そろそろいこっかなぁ。じゃあね、亜久津、また明日。」
「あぁ。」
俺は亜久津に手を振って校舎の中へ入った。
目指すは進路指導室。
「失礼しまぁーす。」
俺は進路指導室のドアを開ける。
中で伴じいが座っていた。
「千石君、ココに座ってください。」
「なぁーに伴じい、俺に何のよう?」
俺は伴じいの向かいに座る。
伴じいがにこっと笑った。
「千石君、おめでとうございます。」
「は?」
「ジュニア選抜に選ばれましたよ。」
「・・・・え。」
ジュニア選抜?
ってなんだっけ。
「ジュニア選抜、ってえっと。」
「落ち着いてくださいよ、千石君。君は選ばれたんです。分かりますか?」
伴じいが一言一言確認するようにゆっくり言う。
「分かります。」
「それでですが、夏休みに選抜合宿に出てもらわなければなりません。分かりましたか?」
ジュニア選抜・・・合宿・・・選ばれた。
「うえっ!俺、選抜に選ばれたの?え、えぇー!!」
信じらんない、選抜ってあの選抜でしょ?
俺、選ばれたんだ!?嘘だろ!
考えてもなかったから思いつくのに時間がかかっちゃったよ。
「はい、おめでとうございます。頑張ってくださいね。」
「ええーっと、はい。頑張ります。」
「話は以上です。」
「し、失礼しましたぁ!」
俺は居てもたってもいられなくて、走って進路指導室を出た。
やった、やった、やった!
あぁ、どうしよう、この気持ち今すぐ伝えたい。
に伝えたいよ!!
「亜久津!!」
俺は結局屋上へ戻ってきた。
亜久津はさっきと同じ場所に同じ様に立っていた。
違っていたのは手に握られていたのがタバコじゃなくて携帯だったことだけだ。
亜久津がこっちに気付いて電話の相手に何か言っている。
「おい、ちょっとこっち来い。」
亜久津が俺を手招きする。
俺は素直にそれに従った。
「何?」
亜久津が携帯を差し出してくる。
「だ。」
俺は亜久津から奪うように携帯を受け取る。
「わ、?」
『・・・おぉ、清純、久しぶりだな。元気してた?』
聞こえてきたのは一週間ぶりのちょっとかすれたの声。
何だかちょっといつもより元気がない気がするけど。
「それはこっちのセリフだよ!もう、ずっと休んでるって言うから心配してたんだよ?」
『・・・・。』
からの返事が返ってこない。
聞き取れなかったのかな。
「?」
俺はためらいがちに声をかける。
すると、小さな声であぁ、とが答えた。
「どしたの?やっぱ、体調悪いんじゃない?」
『いや、ゴメンちょーっとボケッとしてた。それで何だって?』
が答えた。
その声はさっきと違っていつも通りの明るい声だった。
・・・やっぱり俺の気のせいだったのかな。
「だから、休んでるなんて知らなかったから心配してたんだよって言ったの。」
『ワリィ、ワリィ。連絡出来たら良かったんだけど、オレお前の携帯番号とか知らなかったし。』
「教えるから!今から教えるから!」
俺が慌てていう。
すると携帯の向こうからがくすくすと笑っているのが聞こえてきた。
俺の大好きなの笑い声。
それを聞いただけで一週間の隙間なんてすぐに埋まった。
「何で笑うのさ?」
『ハハ、ゴメン。オレ明日は学校行くから。またそん時教えてくれよ。な。』
「え、明日は来られるの?やった、ラッキー!」
に会える事とジュニア選抜のことを伝えられる事の二つの喜びが重なって、
俺のテンションは最高だった。
『何かあった?』
俺のテンションの高さに気付いたが聞いてくる。
「うんちょっとねぇ。」
『何だよ?』
「明日話すから。に一番に話したいから。俺楽しみに待ってるよ。」
『了解、確実に明日はいけると思うから。そうだなぁオレ明日4限サボるつもりだから、
昼休み、先に屋上で待ってる。』
「うん、分かった。」
『あ、仁に用事があるからかわってくれる?』
「うん、じゃあまたね。」
俺は亜久津に携帯を返した。
「亜久津に用事があるって。」
「あぁ。」
亜久津はそれを受け取ってから、またと話し始めた。
俺は邪魔しないようにそっと屋上を後にした。
明日はに会える。
その嬉しさでさっきまでの違和感なんか吹き飛んでいた。
校舎に入る前、何となく空を見上げる。
あいかわらずの曇り空だった。
・・・・雨、降らないといいなぁ。
本当はあの時、彼の声が少し悲しげだったのに気付いてたんだ
だけど俺は知らん振りをしてしまった
何故か不安で不安でたまらなかったから
だから、これから何が起こるのかなんて
考えようとしなかった
考えたくもなかった
俺はとても酷い人間です
とても
酷い人間です