側に居てくれたらそれで良いなんて、
見え透いた嘘ついて。
本当はずっと、ずっと、
彼のことを繋ぎ止めておきたかった。
本当はもっと、もっと、
彼に笑いかけて欲しかった。
俺のためだけに、
ただ、俺のためだけに。
繋ぎ止めたいくらい
約束をした。
は俺に居られるだけ側に居てくれると。
だけど、それはあくまで友達として。
まぁそれは、嫌われたんじゃなかったから良かったとするとして。
その代わりは俺に一つだけ条件を出した。
もしもが居なくなったら、思い出にすること。
それが俺がにした約束。
なんか良くは分からなかったけど、がそう言ったから。
それで良いと思った。
けど、俺は、欲張りだから。
だから。
本当は。
「なぁーに考え事してんの?」
「えうわっ!!」
目の前にあったの顔に驚いてへんな声が出てしまった。
は一瞬ぽかんとした表情を見せた後、くすくすと笑い始める。
・・・・あぁ、幸せだなぁ。
って俺ちょっとじじいみたい?
まぁ、それでもいっか。
俺はまだ笑い続けているの方を見た。
白ランとほぼ変わらないくらいの白い肌。
きらきらしてる黒い髪。
俺よりもちょっと低い背。
そして、俺と同じ男。
なのにどうしてこんなにも想ってしまっているのか。
俺にもまだよく分からないでいる。
「ねぇ、清純。」
ふと見るとがこっちを訝しげに見ていた。
「何?」
「お前ってさぁ、良くオレの事じーっと見るけど、それさぁ。」
「だから何?」
「変態っぽいからやめろよ。」
「は?」
へ、変態?
俺ってそんな風に見えてるの?
「さっきのお前の顔、写メに撮って見せてやりたいぜ。」
がにひひ、と今度は悪戯っぽい表情をする。
「そ、そんなにヤバイの?俺。」
変態って、さすがにそれは無いでしょ。
これでも俺の顔もててるんだよ?
「・・・・秘密。」
「え、ちょっと!?秘密ってなんだよ!ねぇってば!」
俺は慌てて問いただす。
はまたちょっと笑ってこっちを見た。
「秘密ったら秘密。それより、昼食おうぜ。オレ腹減ってんだって。」
はそういいながらフェンスにもたれ掛かるように座った。
「うぅー。」
俺がうなっていると下からがちらっとこっちに目線をやる。
「食わないんだったらオレ帰るよ?これから用事があるんだ。」
「・・・・食べます。」
しぶしぶ俺はの横に座って、もっていたコンビニの袋からおにぎりを取り出した。
実は結構俺って尻に敷かれるタイプなのかな。
一つ目のおにぎりにかぶり付く。
俺はちらっと横のに目をやった。
「ねぇ、のお昼ってそんだけなの?」
見てみるとが持っているのはパンひとつ。
しかもそれがミニサイズときたもんだ。
いっつも普通におにぎり三個とパンを食べる俺にとっては耐えられない量だ。
「うん、そだけど?」
は自分が今持っているパンに目をやってから不思議そうにこっちを見た。
何でそんな事を聞くのかって顔だ。
「少なくないの、それだけじゃ。」
「前はもっと食ってたんだけど、最近はあんまり食欲無いから、これで十分。」
俺はふと思っての手首を掴んだ。
・・・細い、細すぎる。
これが健全な中学2年男子の腕なのか?
「清純?」
「やっぱダメ。はもっと食べないと、痩せ過ぎ。ってか何気にこないだから痩せてない?」
「そうかな、気付かなかったけど。」
が目線を泳がせる。
俺は掴んでいた手首を離して自分のおにぎりを一つ取り出して差し出した。
「これ、あげるから。食べて。」
「・・・いいよ、清純部活でお腹すくんだし。悪い。」
「良いから、食べて。じゃないと俺今日部活休む。」
「どういう理屈だよそれ。・・・分かった。貰っとくよ。ありがと。」
がおにぎりの包みを開けて一口かぶり付く。
俺もそれを見とどけた後、自分のおにぎりを食べ始めた。
しばらくして俺は二個目のおにぎりに取り掛かろうとする。
その時ギーッと音を立ててドアが開けられた。
「あれ、亜久津。おはよう。」
「あぁ。」
亜久津はけだるそうに俺達のほうへ寄ってくる。
そういえば今日はまだ見てなかった。
って事はいま登校したのかな。
まぁ、朝から登校してる亜久津を見るほうがちょっと不気味だけどね。
「・・・今ごろ登校って、オイ仁。お前学校に何しに来てんだよ。」
が隣に座れと亜久津に示しながら言う。
俺のあげたおにぎりはちゃんと食べたみたいだった。
亜久津はからちょっとだけ離れて座った。
「仁さぁ、あんまり優紀ちゃん泣かせるなよ。」
「おれがいつ泣かせた?」
「いつもだろが。もう少しいたわりの心というものを持ってだなぁ・・。
まぁ良い。ともかく学校にはもうちょっと早く登校しろよ?」
が言うのを亜久津はだるそうに聞いていたけど、ちゃんと頷いていた。
何だかんだいってには敵わないんだよね、亜久津って。
「・・・そう言えば、おめぇの好きなババァが正門で待ってるってよ。」
「・・・マジ!?ちょいと亜久津さん、そういうことはもっと早く言おうよ?え、ってか仁。」
「何だよ。」
がちょっと笑っている。
何なんだろう。
「ババァとか言ってるワリににちゃっかり優紀ちゃんにココまで
車で乗せてきてもらったんだ。へぇ。」
亜久津の顔が見る見るうちに真っ赤っ赤になっていく。
うーわめずらしぃ。
「ウルセー!いいからテメェは行けよ。」
「ハイハイ。んじゃあ清純また明日。」
「え、ちょっと。どこ行くの?」
「優紀ちゃんとこれからデートなんだv待たせちゃいけないから行くね。
おにぎりありがと、うまかった。」
それだけ言うと、は急いで校舎の中に駆け込んでいった。
・・・デート。
お昼からサボって?
「・・・何だよそれ。」
何で?
だっては一緒に居てくれるって言ったじゃん。
なのに何でデート?
どういうことだよ。
自分でも制御が利かないほど怒りが込み上げてくる。
何これ?
俺今何で怒ってる訳?
え、どうしちゃったの。
何で?
「千石。」
亜久津が横で何か言ったような気がする。
でもダメ、今口開いたら絶対俺ヤバイ。
どうしよう、コレ。
「オイ、千石。」
俺は乱暴にポケットに手を突っ込んだ。
「無い。」
「あぁ?」
「無い、無い、無いっ!!」
タバコが無い。
アレが無いと落ち着かない。
俺はイライラしてどうしようもなくてじたばたする。
「ない!」
「落ち着けよっ!」
「・・・え、」
亜久津が俺の腕を掴んだ。
「テメェはアホか?」
「何だよ。」
亜久津が大げさにため息をつく。
「タバコはあいつが持ってっただろうが。」
「・・・・うん。」
本当は分かってた。
あの日にタバコを取られたこと。
あの日からはタバコを吸う必要がなかったから、今ポケットに入ってないこと。
が側に居てくれたから、必要なかった。
タバコは俺の精神安定剤だったから。
「ゴメン。俺ちょっとイライラしてた。」
「・・・良いけどよ。一本吸うか?」
亜久津が自分のポケットからタバコを取り出して言った。
「いいや。ありがと。」
「そーかよ。」
亜久津はタバコに火をつけて吸い始める。
俺はその横に並んで空を見上げた。
完全に嫉妬だった。
誰だか分からない相手に嫉妬して、俺、馬鹿みたい。
分かってたはずじゃん。
俺たちは友達、それ以上のなんでもない。
だからが誰といようったって俺には関係ないはず。
それでも良いからって俺はあんな約束をしたのに。
それで良いってちゃんと分かったはずなのに。
俺以外の人ことを思って笑ってる姿を見ただけなのに。
あんなにムカツクだなんて。
ホント、馬鹿。
「だぁーっ!!誰なんだ優紀ちゃん!!」
「・・・ババアだよ。」
亜久津がぼそりともらす。
いまいち聞き取れなくて俺は亜久津のほうを向いた。
「誰だって?」
亜久津がちょっと嫌そうな顔をしてこっちを見た。
「・・・母親だよ。」
「・・・誰の?」
「・・・・・おれの。」
優紀ちゃんは亜久津のお母さん?
「え。って事はじゃあは何でデートとか言って・・」
亜久津が目を見開いた。
俺、何か言っちゃいけない事聞いたかな。
「亜久津?」
俺が小さく呼ぶ。
亜久津ははっと気付いたようにそっぽを向いた。
一瞬見えたその表情は、あの日見せたのと同じ、悲しそうなものだった。
何かそれからは話し掛けづらくて俺はまた空を見上げた。
前も感じたけど、何なんだろうこの違和感。
亜久津は一体何を思ってあんな表情を見せたのだろう。
・・・分からないよ。
分からない。
彼のついた嘘がどんなに俺を守ってくれたか、
欲張りな俺には気付くことが出来なかったんだ。
あの日が来るまで。
あの日が 来るまで。