ずっと とか

永遠 だとか

軽く口にしていた言葉が全て

彼にとって悲しみでしかなかったことに

気付いてなかったから

俺は多分 いっぱい いっぱい

彼を傷つけていた



永遠だなんて言わないで




授業終了後の教室。

大半の生徒は部活に行って、残っているのは俺を含め5,6人ぐらいだった。

俺はさっきから、何をするでもなく窓際の自分の席から外を見ている。


俺がを泣かせた日からもうかなりの時間が経っていた。

その間、何度謝りに行こうかと思ったことか。

・・・だけど出来なかった。

あの日どうしてが泣いたのか、俺は未だに分からないままだった。

出会った時の彼は明るくて、親しみやすくて、

何か勝手に強い人だと思っていた。

けど、違った。

何度もあの時のの表情思い出す。

目にいっぱい涙をためて、だけど泣かないように我慢して。

そして、何だか苦しくて、痛い。

・・・そんな感じがした。

それだけじゃない。

あの後の亜久津のことも引っかかっている。

俺がの泣いた理由を尋ねたとき、彼は見たことも無い表情をしていた。

怒りでも、呆れでも無い。

そう、哀れみに似た悲しい表情だ。

どうして彼がそんな顔をしたのか、聞くチャンスは何度もあった。

けど、聞けなかった。

よく分からないけど、聞いちゃいけないような気がした。



あぁ、何かもう色んな事考えすぎて、頭がオーバーヒートしそうだ。

ウジウジ悩むなんて俺の柄じゃない。

そうは分かっているけど、どうにも出来なかった。



に会いたいと思った。

会いたくないとも思った。



たった一度会っただけなのに、こんなにも彼が俺の中にいる。


いつもならそんなことは無いはず。

軽く遊んでバイバイ、の関係なんていつものことなのに。

どうしてこんな風になってしまったのか。

答えがあるのなら一つだけだ。


あの日のあの表情を見てしまったから。



あの涙のわけを知りたいと思う。

知ってはいけないとも思う。



でも、もう後戻りは出来ないと感じていた。

それぐらい俺はを想い始めている。


痛いほど、そう感じていた。



「だぁ、もう!しっかりしろよ、俺!!」

俺は勢いよく椅子から立ち上がった。

見わたしてみると、教室にはもう俺一人しか残ってなかった。

ふと思いポケットの携帯を取り出して時間を見る。

授業が終わってからもう、一時間はゆうにすぎていた。

一時間も考え込んでたのか・・・。

「・・・・やべ、部活始まってるじゃん。今から行ったら確実に説教だろうしなぁ・・・休もうかなぁ。」

俺は鞄を手にとった。

「休むのかよ。最近ずっと行って無いじゃん。」


「・・・・え、?」


驚いた。

独り言のつもりで呟いた言葉に答えが返ってきた事もそうだけど、

何よりもその声の主に、だ。


ここにいるはずが無い。

そう思いながらも、なぜか絶対そうだと確信していた。


俺は一度深呼吸をしてから恐る恐る後ろを振り返った。

案の定、そこにいたのは 、その人だった。

は何も言わず、静かにそこに立っている。

俺はを見つめたまま動けないでいた。



「な、何で?」

やっとの事で俺が問うと、は少し困ったように笑った。

「そうだな、何でだろうな。俺にも分からないよ。」

「ご、ごめんね、、ゴメンね。俺、ずっと謝りたかったんだ。けど、俺、」

何をまず伝えるべきなのか、それすらもう分からなくなっていた。

に会えた事でこんなにも自分がうろたえるなんて、思いもしなかった。

だけど今はとにかく謝ら無くちゃいけない、ということだけはハッキリとしていた。

「俺、何て言ったら良いのか分からなくて、どうしたら良いのか分からなくて。」


ヤバイ、泣けてきた。


悲しいわけでもない、痛くもつらくも無い。

だけど涙が溢れて止まらなかった。

「ホントにゴメンね。ゴメンね、。」

「・・・いーよ。もう、気にしてないから。あん時はオレも悪かったし、ゴメン清純。」

気が付くとが近くまで来ていた。

泣いているのを見られたくなくて俺は下を向く。


「なぁ、清純。オレ別にお前のこと嫌いじゃないし、正直嬉しかった。けど、ゴメン。

気持ちに答えてやることは出来ないんだ。これは清純のせいじゃなくて、オレのせい。

だからもう、泣くなよ。お前は何も悪くない。だから、泣かないでよ。」


顔を上げるとが俺の顔に手を伸ばしてきて、まだ止まらない涙をぬぐった。


「清純。」


が小さく俺の名前を呼ぶ。

俺はそれに導かれるようにを抱きしめた。

の体は見た目よりももっと細くて、俺の体にすっぽり収まってしまうほどだった。

、好きだとかもう何も言わないから、だから俺の前からいなくならないで。」

俺は祈るように言った。


「・・・それは、ずっと?」

が小さな声で問い返す。


「・・・嫌?」

俺が聞き返す。


は返事の代わりに顔を横に振った後にでも、と呟いた。

「何?」


「清純、オレはずっと、とか永遠だとかそういう不確かな言葉が大嫌いなんだ。

だから約束はしない。けど、お前がそれで良いって言うのなら

居られるだけ一緒に居てやるよ。」


?」

は俺の中腕のから抜け出すとこっちを見上げた。

「だからこれだけは約束してくれ。もし、オレが居なくなったら思い出にして。」

「思い出?」

「そう、思い出にするんだ。そうすればいつか笑って話せる時が来るから。」



どうしてがこんなことを言うのか分からなかった。

けど自然と頷いてしまっていた。

は俺の返事を見て少し笑った。

とても綺麗な笑顔だった。


「じゃぁ、早く部活にいけよ。」

「え?」

「オレ、ずっと観に行ってたんだぜ?なのにお前最近サボってるしさ。」

「え、え?」

「ほら、早く行った行った。俺もすぐ後で観に行くから。」

が俺の背中をぐいぐいと押す。

俺はされるがままに教室を出た。

「え。う、うん。じゃあ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。頑張れよ。」

そう言っては手を振った。

俺もしばらくそれに手を振ってそれからに背を向けて走り出した。







結局この日、テニスコートにが現れることは無かった。


だけど俺は都合が悪くなったのかな、としか考えずにあまり気にかけなかった。


がその時どうしていたかなんて、考えもしなかった。








あの時どうしてもう一度彼を振り返らなかったのだろうと、


今でもそう思わない日は無い



あの、彼の言った言葉の
意味に


あの日、俺は気が付くべき
だった