ぽす、ぽす、と音を立てながらゆっくり、雪を感じながら歩く。
ふと振り返ると長く長く続いてる足跡。
雪だなぁ・・・。
当たり前のことをまた新たに認識するって、何か良い。
なんだか無性に嬉しくなってちょっとスキップとかしてみる。
ぽすっとさっきよりもいい音がしたので調子に乗ってリズムをとってみたり。
鼻歌まで歌ってしまいそうだ。
でも、それもたまにはいい。
こんな日くらい、楽しんだって良い。
「・・・・・・犬?」
ボソッと呟かれた声で一瞬にして現実に引き戻された。
どれくらい駆け回っていたんだろう、オレ。
しかもこんな道の真ん中で。
振り返りたかったけど、恥ずかしすぎて、背後の存在を確認するのが怖い。
「・・・あ、いや、えっと、ゴメン。」
ぽす、ぽす、と近づいてくる。
思わずギュッと目を閉じた。
足音はオレの前に回りこんだところでとまった。
「あの、さ。そんなに怖がらないでよ。よく分からないけど、ちょっと傷つくから。」
それでもまだオレが目を開かないからか、一つ小さく溜め息を吐かれた。
そして足音が少しずつ遠ざかっていく。
諦めた、のか。
少しして薄く目を開いて姿を確認しようとした瞬間。
顔に思いっきり何かがぶつかった。
冷たい・・・・雪?
ぽかんとしていると、少しはなれたところから小さな笑い声。
「っ・・・ごめ、まさか、そんな、思いっきりぶつかるなんて・・・・っははは。」
なんだろ、えっと、ぶつかった、んじゃなくて、ぶつけられたの、か?
「ごめ、ホント、ごめんっ・・・ふっ・・・。」
止まない笑い声を聞いてるとだんだんと腹が立ってきた。
「ふふっ・・・・ぶっ!?」
ぶつけてやった。
それはもう、思いっきり、投げた。
相手は一瞬ビックリしたみたいだけど、すぐに雪を掴んで投げ返してくる。
オレもそれにやり返した。
そしていつの間にか立派な雪合戦。
お互いいつの間にか笑いながら雪を投げてて。
楽しかった。
すごく。
「なぁ!俺、泉!お前は?」
雪玉とともに投げられた言葉に、一瞬ひるんだ。
そして、二度目の直撃と共に後ろに倒れる。
「おい、大丈夫か??」
雪の上で座り込んだオレに駆け寄ってきてくれる。
すごく心配そうな表情で。
この人、すごくいい人だ。
だから、嘘、つけない。
つきたく、ない。
真っ直ぐ相手の目を見るのなんていつ振りだろう。
泉が視線に気づいてこっちを見てくれたことを確認して、オレは言った。
声には、ならないけど。
『オレは、・・・分かる?』
泉はしばらくぽかんとオレを見てた。
『オレ、はなせない。ここ、怪我してるから。ゴメンね?』
巻いてるマフラーを指差して言うと、納得してくれたみたいだった。
「別に謝ることじゃないだろ?な、お前の名前ってどんな字?」
オレの横にしゃがみ込んで泉が訊いてくる。
嬉しかった。
みんなオレがこの話をするといつも態度が変わる。
別に、いじめられるばっかじゃないけど、でも嫌だ。
オレはオレ、なのに。
だから、こうやって笑いかけてくれた泉がすごく嬉しくて、泣けた。
雪に一文字ずつ書きながら我慢したけど、無理だった。
「ふーん、こうやって書くんだ・・・・って何で泣くんだよ!
ってちょ、冷たっ、やめろって!」
見られないように雪を投げつけた。
「くそっ、くらえっ!」
泉もまた投げ返してくる。
結局そのまま第2ラウンドが開始されてしまい、オレの涙もいつの間にか止まっていた。
「はぁっ。つかれたー。」
泉が公園のベンチの雪をさっと払って座る。
オレも隣に座ってみた。
ちょっと、冷たい。
「まさか、せっかくの休日に雪合戦やる羽目になるなんて、思わなかった。な。」
ホント、そう思う。
こくりと頷くと泉が満足したように笑った。
「でも、まぁ、それも良っか。楽しかったし。も楽しかった?」
何度も何度も頷いた。
こんな風に誰かと笑いながら一緒に遊ぶなんて、久しぶりだった。
ホント、楽しかった。
「そっか、なら良かった。でもさぁ、一人で雪遊びしてたときも楽しそうだったな、お前。」
そう言われて思い出した。
見られてたんだった、アレ。
一気に恥ずかしくなって俯く。
すると、泉がぽんと頭を軽く叩いてきた。
「ゴメン、ついあの時はあんなこと言っちゃってさ。通りであまりにも楽しそうに駆けてるお前見て、
何か可愛かったから・・・犬みたいで。」
どうなんだろ、それ。
ボーっと考えていると、隣で泉がゴソゴソ何かやり始めた。
気になって恐る恐る顔を上げると、真っ赤な顔が目の前にあった。
首を傾げると泉がちょいちょい、と下を指差す。
積もった雪にオレたちの足跡。
そしてもう一つ。
すごくいびつなハートマーク。
よく見ると、その横には英数字が羅列されていた。
「とりあえず、そういうことだから。意味が分かったらメール、して。」
泉がバッと立ち上がって、そのまま歩き出した。
何となく止めるタイミングを逃して見送っていると振り返った。
「ちゃんと消しといてよ、それ。」
頷くとひらひらと手を振って、そのまま今度は振り返らなかった。
・・・・えっと、これ、って。
戸惑いもあったけど、とりあえず、携帯をとりだして打ち込んだ。
雪が溶けてしまう前に、彼とのつながりが消えないように。
一生懸命打ち込んで、そしてそのまま送り返した。
ありがとう、に雪だるまと、ハートマークのおまけをつけて。