あー、憂鬱。
ここの所続く雨のせいで部活はまともにできなくて。
かなりストレス溜まる。
今日も軽く筋トレして、学校を出た。
なのに、忘れ物を思い出すなんて、最悪にも程があるぜ、全く・・。
引き返してきた道の先にやっと学校が見えてきた。
ビニール傘に響く雨音。
自然と溜め息が出る。
校門を潜り抜ける瞬間、何かかが間の前に飛び出てきた。
「・・・・・・っ!?」
「うわぁっ!」
視線を落としていたせいで反応が遅れた。
思いっきり正面衝突。
衝撃で取り落とした傘を振り返ると同時に聞こえてきたバシャン、という音。
慌てて目をやるとぶつかっただろう相手の地面に手をついてる姿。
どうやら向こうの衝撃の方が強かったようだ。
「おい、大丈夫か?」
とりあえず傘を取って差しかける、とそこで気が付いた。
こいつ、傘持ってない?
よくよく見ると全身びしょ濡れだ。
「大丈夫、か?」
しばらくしても反応を見せない相手にもう一度声をかける。
と、ゆっくりと顔が上げられた。
その瞳を見て、オレは言葉を失う。
睨みつける様な、だけどどこか寂しい感じが、した。
すごく印象的で、思わず綺麗だ、と呟きそうになるくらい。
「・・・悪い。」
小さな呟きにハッと我に返る。
「いや、えっと、こっちこそ悪かった。立てるか?」
差し出した手を握った低い体温に相手の顔を見る。
すると、それに気づいたのかフッと小さく笑って手を引いた。
「怪我、ないか?だいぶ飛ばされてたけど。」
「ん、大丈夫。そっちは。」
「オレは、全然。」
「そ、良かった。んじゃ。」
投げ出された荷物を拾い上げると、傘から出て行こうとする。
「あっ、おい。」
咄嗟につかんだ腕がまた冷たくて。
何故だかどうしようもない気分に陥る。
「あ、えっと・・・その。」
思うように続かない言葉に自分が情けなくなる。
一体なにがしたいんだ、オレは。
そんなオレをしばらく見つめていたそいつが、不意に微笑んだ。
「花井は・・・・優しいな。」
腕を掴むオレの手に冷たい手が重ねられる。
その手に促されて、オレは腕を離した。
「ありがと、大丈夫。・・・だから、」
そっと唇に当てられた人差し指。
頷いたオレを見てそいつも頷いて。
そのまま校門の外へ駆けていった。
オレはただそれを見つめることしかできなかった。
「帰ったんじゃなかったのか、花井。」
玄関に突っ立っていた阿部が、オレに気づいて意外そうに声をかけてくる。
「あぁ、忘れ物。・・・阿部、今まで自主連してたのか?」
「ん、あぁ、まぁ、そんなとこ。つーか雨うざいな、野球してぇよな。」
そう言いながら空を見上げる阿部の手に握られた2本の傘。
「・・・・嘘吐き。」
「あぁ?何?」
呟きは雨音にかき消されてしまって届かなかった。
「そういえばさっき、校門のトコでに会ったぞ、アイツ何か急いでるみたいでさ、びしょ濡れ。傘ぐらい差せっての、な。」
それだけ言って歩き出す。
これがオレの精一杯の行動だ。
阿部が何か言いたそうな顔してたけど、見なかったことにする。
ここからは、オレの立ち入る場所じゃない。
痛いほど、分かっているから。
誰もいない廊下を歩いていると、さっきのの姿がふと蘇る。
雨にまぎれて見逃しかけたけど、あれはきっと泣いてたんだ。
だけどそれをは秘密だ、と言った。
それほどまでに、大切なんだろうか。
アイツのこと、が。
ホントは全部分かってるのに、どうすることもできなかった。
オレは優しくなんて、ない。
阿部の手に握られた2本の傘。
の涙。
そして、あの時感じた、どうしようもない気持ち。
思い出せば思い出すほど憂鬱で。
あぁ、早く、雨なんて止んでしまえばいいのに。
また、ひとつ溜め息を吐いた。