試合終了後、観客席のフェンスにしがみついてベンチを見つめていた。
そして、初めて見た準太の涙。
あの日からずっと決めていた。
「なぁ、準。」
「んー?」
雑誌に目を向けたまま、軽い返事が返ってくる。
きっといつもの他愛無い会話だとでも思ってるんだろう。
つーか、オレだってそうしたい。
けど。
「あのさ・・・別れよっか。」
小さく、だけどはっきりと言った。
途端、苦しくて苦しくて息ができない錯覚に陥る。
「・・・・・なに?」
もっかい言って。と強い瞳で見つめられる。
そう、この瞳が好きだった。
「・・・だから、別れようって、言った。もう、終わらせようって。」
言葉を紡ぐのがつらい。
肺がうまく動いてないみたいだ。
息が吸えない。
それでも、視線はそらさなかった。
準太の瞳に動揺の色が見えた。
ホントは強いくせに、たまにバカみたいに弱くなる。
そんなところも可愛くて好きだった。
「なん、だよ、それ。そん、な急に・・。」
「急じゃないんだ。ホントはずっと、あの日から、決めてた。」
「いつだよ、それっ!!」
雑誌が床にスローモーションみたいに落ちていくのが見えた。
押し倒されて、準太を見上げる。
「準が泣いた日。」
本当はすぐにでも駆け寄ってやりたかった。
笑って、頑張ったなって言ってやりたかった。
でも。
「オレ、逃げたんだ。知ってるだろ?泣いてる準を見て、オレ、逃げたんだよ。」
苦しくて苦しくて、もう耐えられなかった。
耐えられなくて、涙が溢れた。
「そんなの・・・別に。」
「苦しいときに、悲しいときに・・・そばに居れない関係なんて。そんなのは嘘だ。」
「。」
ふと準太がオレの頬に触れた。
そこで初めて泣いてたことに気が付く。
「それでも、俺はにそばに居てほしい。」
軽く頬に口付けられて、髪を撫でられる。
「苦しいんだ・・あの日からずっと。オレはきっと準を支えてやれないよ。そんなの一緒に居る意味がないじゃないか。」
涙が止まらなかった。
大好きな人を支えてあげられない。
それがこんなにもつらいことだったなんて、あの日まで知らなかった。
「だったら。だったら、もう、負けない。負けて、泣いたりなんかしない・・・だから、。お願いだから。」
頼むから、これ以上俺から奪わないでくれよ、と。
強く抱きしめられ、耳元で呟かれた声が震えていた。
あの日、準太が失ったもの。
それはオレに埋めてあげられるようなものなんかじゃないはずだ。
「準・・・・駄目だよ。」
ふいに零れた言葉に、身体が離れる。
準太の表情が変わった。
「以上に大切なものなんてないから。」
あぁ、やっぱり。
準、それは嘘だよ。
否、嘘だって言って。
だって。
「オレは、勝ち続ける準が好きだったわけじゃない。
ただ、何よりも野球が大好きな準が好きだったよ。」
準太、そんな顔しないでよ。
そんな、無理して笑わないでよ。
「・・・お前。」
「野球、まだ終わりじゃないでしょ。勝たなくたっていいから。
だから・・」
諦めないでよ。という言葉は涙のせいで言えなかった。
強く抱きしめられる。
「・・・分かった。諦めないし、泣かないし、」
いっそう強く抱きしめられる。
「泣かせない。・・・だったら、そばに居てくれる?」
そう言いながら見せた、くちゃくちゃの笑顔。
だけど、さっきよりも断然カッコいい。
涙が止まらなくて、目を閉じたまま準太の背中に手を回した。
「だから、も俺と一緒に戦って。俺、頑張るから、さ。」
強い声。
オレの大好きな、準太。
頑張って。
頑張って。
夏は終わってしまうけど、秋が来て、冬が来てそして、春が来て。
また夏はやってくるから。
だから。
「・・・準太、大好き。」
「・・・ん、俺も。」
強く、なりたい。
もっと、もっと。