「あっ、廉!!れーんー!!」
改札口の前で人ごみを見つめていると、どこからか待ち望んでいた声が聞こえてきた。
じっと見ていると、ぶんぶんと大きく手を振りながらこちらに向かってくる姿。
いてもたってもいられずに改札まで走っていく。
「、くんっ!!」
「廉っ!!」
くんが改札を出て一目散にこちらへ駆け寄ってきてくれた。
そして、いつもどおり。
「れんー、久しぶりだなぁーーーー!元気してたか??つーかちょっと背伸びたんじゃねぇ?」
ぎゅーーっと力いっぱい抱きしめられる。
これがくんなりの再会の儀式、なんだそうだ。
最初は少しびっくりした、けど、最近はもう慣れた、かな。
それに、くんにこうやってされるのは嫌じゃ、ない。
すごく暖かくて、好き。
「うん、やっぱでかくなってる。身体つきも心なしかガッシリしてきてるし。うらやましぃなー。」
そう言いながらぽんぽんと頭をなでられる。
「うらやましい?」
俺は何となくその言葉が引っ掛かって聞き返す。
すると、くんがちょっとびっくりしたような顔で俺を見た。
「くんも、おっきい、よ?」
俺の言葉に一瞬の間の後、くんが笑った。
「そっか、そっか、そーだよな!オレもでっかいな。ま、お前よりは2年分育ってるからな。」
お前はもっとでかくなれよ。とまた頭をなでられてオレも笑った。
この2歳上の従兄弟の、こういう気さくな振る舞いが大好き、だ。
「んじゃ、そろそろ行こっか。タイムリミットまであと10時間、めーいっぱい遊ぼうぜ!!」
「うんっ!!」
本当は毎年2、3日は一緒にいてくれるんだけど、今年はくんがどうしてもこっちに1日しかいられない。
だからすごく大事にしなくちゃ。
長い長い夏休みのなかのたった一日。
特別な一日なんだ。
「あーー、楽しかったぁ。なぁ、廉、他にしたいこととか、食べたい物とかない?あとちょっと時間あるから、まだ大丈夫だよ?」
今年は本当にいろんな所に行ったし、いろんなものをいっぱい2人で食べた。
くんが『廉のしたいこととか食べたい物、全部制覇しよう!』って言って、本当に全部かなえてくれた。
すごく楽しかった。
けど、
「俺は、もう、いいよ。くん、は?」
「え?」
「くんの、したいこと、とか、食べたい物、とか、ない?」
くんの意見は全く出てこなかった。
それじゃあ、不公平、だ。
そう思っていると、くんがふっと笑う。
いつもと違う、ちょっと大人びた、顔。
「廉は、ホントにかわいいな。オレ、大好きだ。」
そう言ってギュッと抱き寄せられた。
いつもより力強くて、だけど少し違和感。
「くん・・・・どうした、の?」
くんの細い体が震えていた。
彼はこんなに小さかったのか、と驚くほど。
くんは弱弱しくて。
「廉・・・ごめん。もうすこし、このまま、で。」
ちいさく発せられた言葉に、俺は、ただ背中をさすってあげることしかできなかった。
「あーー、もうホント最後のほう無駄な時間過ごしちゃったなぁ。ごめんな?廉。」
改札の前でそういったくんはもう元通りのくん、で。
すこしだけ目を赤く腫らしてはいたけど、笑顔もいつもどおりだった。
「ううん、すごく、楽しかっ、たよ?」
「そっか、うん、それなら良かった。」
ちらっとホームの時計に目をやる。
「もうすぐ、来るね。」
「そうだな。そろそろ行かないとな。」
「また、来年、だね。今度、はもうちょっといられたら、良いね。」
「あ・・・うん、だな。今年は、こんなんで、ごめんな。また来年は、もっといっしょに、あそべたら、いい、な。」
ぎごちない言葉にくんをみやると、笑っているけれど、どこか不自然で。
「、くん?」
「廉・・・オレ、多分来年には・・・」
ジリリリリ、と電車がホームに入ってくるのが告げられる。
「あっ、電車・・。」
ホームのほうに意識を向けた途端、ギュゥッと強い力で抱き寄せられる。
ふわりとおでこに何かが触れる。
「じゃーな、廉。また、いつか。」
「く・・・・」
声をかける暇もなくくんが改札を走り抜けていった。
おでこに残った彼の体温。
一瞬だったけれど、それはいつもと違う彼の行動。
俺はただ何もわからないまま、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。