「ちょ、ちょぉ待てって!!・・・叶!!」



後ろからの必死な呼びかけに振り向いてる暇なんてない。


とにかく今は走れ、俺。


アイツから逃げろ!!



「っ、おまっ現役野球部員が本気で走んなって!!」



試合中よりも頑張ってるかもしれない。


ちょっと、苦しい、かも。



「くっそ、バカにすんなよっ、オレだって、美術部員だ!!」



だんだんと近づいてくる足音。


美術部員とか、かんけーねぇだろ、今っ!!


しかも速いし!!


少し油断した瞬間、ガシっと腕を掴まれる。


反射的に振りほどこうとして、思いっきり拒まれた。



「っ、ハァ、ハァ、ざまーみろ、へへ。」



「っ、離せっ!!くそっ、この嘘吐き!」



「はぁ?嘘吐き?」



ぐいっと無理やり身体を反転させられる。


向かい合わせになって、図らずも目と目が合った。



「嘘って、なんだよ?」



プイっと顔をそらすとがふぅと溜め息を洩らした。


その仕草が、何故か気に入らなくて。



「・・なんなんだよ、一体。」



「・・・へ?」



間の抜けた反応に抑えていたものがはじけた。



「っ、何なんだよって言ってんだよ!!!お前っ、俺にっ・・」



思いっきり睨みつけてやる。


すると、一瞬の間をおいて、あぁ、と小さく納得した声をもらした。



「好きだって言ったよ?」



だから何?とでも言うように首を傾げる。



「っ、だからっそれが、何なんだって・・・」



「だって、好きだから、言いたくなったんだよ。それだけ。
おかしい?オレ。」



そう言ってじりじりと距離を縮めてくる。


腕は未だ掴まれたまま。



「嘘吐きじゃなかったら、逃げない?叶、オレ、本気。」



「そういう、ことじゃ・・・」



口ごもる俺を見てがフッと小さく笑った。



その息がダイレクトに伝わるほどの距離で。



一体、何してんだ、俺たち。



つーかさっきまでは普通に楽しく昼飯食ってなかったっけ?



部活の話とか昨日見たテレビのこととか笑って話したりしてさ。



それなのに、何で、こんな。



「好きだよ。叶・・・・しゅーご。」



聞いたことないくらいの甘ったるい、の声。



支配されてしまう。



、待っ・・」



最後の小さな抵抗は、向けられた熱っぽい視線によって失敗。













もう白旗を揚げて、目を閉じることしかできなかった。













掴まれた腕から伝わってくる熱が。










触れた唇から伝わる体温が。











きっと俺をおかしくしてしまったのだ。