Let's toss for it!



日曜日、練習が終わった後のグラウンド。


巧は部室の掃除を一人で任されていた。


簡単に言えばじゃんけんに負けたと言う事だ。


ついさっきの光景が、いまだにはっきりとよみがえって来る。


それと言うのも、今日のじゃんけんは巧にとって至上最悪だったからだ。


今日は最高についてない。


そう思うしかないぐらいの完敗だった。


まぁ、それについては仕方が無い、と諦める事はできる。


勝負は時の運なのだ。それぐらいは巧にだって分かっている。


問題なのはその後だった。


あまりにもみっともない結果だったために、認めたくは無いが一瞬、巧は青ざめた。


グーを作っていた手が震えた。


表情は・・・多分驚きを隠せてなかった。


でもそれは、すぐさまいつものポーカーフェイスを作ったために、おそらく誰にも気付かれてはいないはずだった。


ある一人を除いては。


仕方が無い、という風な仕草をして部室に向かおうとした時、と目が合った。


小さく、だったが、はにやりと口元に笑みを浮かべていた。


その途端、巧は自分がしてしまった行動をがはっきりと見ていたことに気が付いた。


巧は目を思いっきり逸らした。


そして逃げた。


周りから見れば単に部室へ向かって走ったとしか見えないだろう、けれど巧は逃げたのだ。


に何か声をかけられる前にその場を離れたかったからだ。


とてつもなく恥ずかしかった。


こんな些細な事であんな反応した自分が信じられなくて、情けなかった。


普通の中学生なら別にここまで気にはしないはずの事も、プライドの高い巧にとっては恥ずかしい失敗でしかなかった。


しかも、一番見られたくなかった奴に見られたことが、巧の恥ずかしさを倍増していた。























そんなこんなで巧は、かったるそうに箒を持ち、溜まりに溜まった砂を掃きだしていた。


やり始めると意外に大変で、やっぱり誰か連れてくるんだったと今更ながらに後悔する。


今から呼んでこようか。


・・・・でも誰を?


みんなこの掃除場所が嫌であんな真剣にじゃんけんをしていた。


そんな連中が来てくれるはずが無い。


ある一人を除いては。




「それは無し。絶対無し。」




ぱっと思い浮かんだ人物がいたが、巧は頭をブンブン振ってその考えを消し去った。




「何やっとるんじゃ、巧。」




巧は驚いて箒を落とした。


一つ深呼吸をする。


そして、何事も無かったかのように装い箒を拾い上げ、声がしたほうを向いた。


今、一番聴きたくない声の主、  が不思議そうな表情を浮かべてそこにいた。




「・・・・・何だよ。」




不機嫌な声で巧が聞くと、はちょっと困ったように笑った。




「もう、掃除終わってええって。それと・・。」




巧が無言で次の言葉を促した。


するとは笑顔をしまって巧を見た。


その表情に戸惑う。


がたまに見せる大人っぽい表情は、何よりも巧を驚かせた。


自然と目が離せなくなる。




「この後、時間あるか?」




声をかけられて初めて、をじーっと見つめていた事に気がつき、軽く目をそらす。




「何かあるの?」




予定をべらべら喋るのが面倒臭かったので、疑問に疑問で返してみる。


すると、は少しだけ躊躇してから、答えた。




「いや、たいした事ではないんじゃけど。巧と今日あんまり話してないなぁと思って。」




「はぁ?何だよそれ。」




巧が呆れた顔をしてを見る。


が舌をぺろっと出して笑った。




「ま、デートのお誘いってとこじゃな。」




「バカ、お前何言って・・・・」




巧が反論しようとした時、他の部員がぞろぞろと戻ってきた。




「そろそろ着替えんとな。巧は箒片付けてこいや。」




がそう言いながら部室に入っていく。





「あ、そうそう一つ言い忘れとった。」





が急に立ち止まって、後ろ歩きで戻ってくる。


そして何を思ったか巧の耳元に口を近づけてくる。


巧が怪訝に思っていると、が耳に一回ふぅっと息を吹きかけた。


反射的に巧が身体をビクッとさせる。









「な、お前なにやって・・。」























「さっきの巧、すげぇ可愛かった。おれ、ドキドキしちゃった。」























言い終わるとはさっさと部室に入っていった。


巧はまた箒を落として、呆然と立ち尽くした。


混乱していた頭が冷え、だんだん状況がつかめてくる。


すると、今度はとてつもなく顔が熱くなってきた。


吹きかけられた息を思い出す。


が言った言葉が蘇ってくる。






「・・・・・・・・・・・・っ。」






とうとう巧は、が囁いた方の耳を押さえてその場にしゃがみ込んだ。


顔どころか耳や首まで真っ赤になっていた。






















「・・・・・・・のばか。」






















小さく呟いた声は誰に届くでもなく、虚しく消えていった。